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アルツハイマー病と糖尿病

  • 2018年6月19日
  • 研究
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アルツハイマー型認知症の治療薬開発に向けて

認知症のひとつであるアルツハイマー病は、全国で約500万人にのぼる勢いで増加し、もはや超高齢化社会となってしまったわが国にとって、大きな社会問題になるのは間違いありません。なぜならば、2018年6月の時点において、まだ決定的に有効な治療薬がないからです。

米国食品医薬品局(FDA)では、4つのアルツハイマー病治療薬を承認しています。ドネペジル(日本名:アリセプト®、ドネペジル®)、リバスチグミン(日本名:イクセロンパッチ®/リバスタッチパッチ®)、ガランタミン(日本名:レミニール®)は、軽度から中等度のアルツハイマー病の治療に使用されます(ドネペジル(日本名:アリセプト®、ドネペジル®)は、高度のアルツハイマー病にも使用可能)。メマンチン(日本名:メマリー®)は、中等度から高度のアルツハイマー病の治療に使用されます。これらの医薬品は、神経の伝達物質を制御するもので、思考、記憶および発語能力を維持するのに役立ちます。結果として、徘徊行動や精神症状の改善にも役立つ可能性があります。しかし、アルツハイマー病の病態そのものの進行を改善するものではありません。

そこでこの数十年の間、多くの製薬企業が、根本治療可能な革命的新薬候補との千載一遇と開発を目指し、臨床試験を続けてきました。しかし、未だ特効薬はみつからず、このままでは将来患者が溢れることになってしまいます。そもそもアルツハイマー病とは、脳の神経細胞が死んでいく病気であり、患者の脳には「老人斑」と呼ばれるシミのようなものがたくさん見られます。この老人斑は「アミロイドβ」という物質が蓄積したもので、このアミロイドβが増えることで脳の神経細胞に障害を与え、最終的に死に至らしめると考えられています。これが「アミロイドβ」仮説という機序です。この仮説に基づいた多くの新薬候補が臨床試験で試されているのですが、未だに決定打が出ないという状況なのです。この仮説に基づく治療薬開発は、もはや手の打ちようがない所まで行き詰まって来ているようにも思えます。

ここで一つ紹介したいのが、九州大学が行っている「久山町研究」という疫学研究です。福岡市に隣接した糟屋郡久山町(人口約8,400人)の住民を対象に、脳卒中、心血管疾患などの疫学調査を目的に、1961年から行われています。この久山町の住民は平均的な日本人集団であり、町関係者や町民の理解も得た、世界でも稀に見る高精度の健康管理事業となっています。
九州大学によると、『久山町研究の最大の特徴は、剖検率の高さにある。正確な死因を知るという点において、剖検以上に正確な診断方法はない。追跡調査の精度も高い。これまでに行方不明となった対象者は数例に過ぎず、追跡率は99%以上。また、久山町研究では40歳以上の住民を5年ごとに集団に新しく加えているため、生活習慣の移り変わりの影響や、危険因子の変遷をもうかがい知ることができる。』と記されています。(久山町研究ホームページより引用:http://www.hisayama.med.kyushu-u.ac.jp/about/index.html

九州大学生体防御医学研究所は、この久山町研究において、糖尿病患者にアルツハイマー病の発症率が高い点に注目しました。そこで、献体された非認知症とアルツハイマー病患者たちの死後脳88例を使用して、全遺伝子の発現プロファイルの変化から、新たにアルツハイマー病の危険因子とその分子メカニズムを解明しようと試みました。

研究の詳細な内容は、科学雑誌「Cerebral Cortex」に掲載されています(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23595620)。

専門性が高いので内容の詳細は割愛しますが、端的に言えば、アルツハイマー病患者の脳内で、「アミロイドβ」の産生や「神経原線維」の変化で始まるアルツハイマー病特有の病理変化とともに、脳内の「インスリン・シグナリング系」が破綻していることを発見しました。重要な結論は、老人斑が形成されるまでについては、インスリン抵抗性があると老人斑の形成が惹起されることが示唆されたということです。また、老人斑が形成された後については,糖尿病とアルツハイマー病のかけ合せマウスの結果および剖検脳を用いた研究から,糖尿病はアミロイドβの存在下に神経原線維変化の本態であるタウというタンパク質のリン酸化を亢進させることも示唆されています。

これらの研究結果は、脳内血糖の高い状態、すなわち糖尿病はアルツハイマー病の発症リスクを高めるだけでなく、症状も悪化させると裏付けられたと考えて良いようです。

今後、糖尿病治療薬を新たなキーとして、アルツハイマー病の予防や治療をめざした新しい治療薬開発の戦略に役立つかもしれません。

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